慢性胃炎とは
慢性的に胃炎が続いている状態です。胃炎には急性のものもありますが、一般的に胃炎とされるのは慢性胃炎を指すことが多くなっています。
以前は、胃生検や切除された胃の組織検査により病理学診断された組織学的胃炎、造影剤を用いたX線検査や胃カメラ検査でびらん・萎縮・過形成などが確認された形態学的胃炎、炎症などの病変がなく症状が続く症候性胃炎などが慢性胃炎のカテゴリーに含まれていました。現在では、症候性胃炎は慢性胃炎ではなく、機能性ディスペプシア(FD、Functional Dyspepsia)と診断されて消化器内科で効果が期待できる治療が可能になっており、慢性胃炎は組織学的胃炎や形態学的胃炎を指すものとなっています。
なお、胃カメラ検査でびらんや萎縮、過形成などの病変が確認されても自覚症状がないケースがあり、検査をしてはじめて慢性胃炎が発見されることも増えてきています。症状のない慢性胃炎の場合も放置していると胃がん発症のリスクが高くなります。特にピロリ菌感染が慢性胃炎の進行や胃がん発症に大きく関与することがわかり、世界的にも慢性胃炎は胃カメラ検査で診断されることが主流になってきています。胃カメラ検査で早期発見し早期治療(除菌)することが重要です。
頻度
慢性胃炎の発症頻度は、50代で50%、70代で70%と高齢になるに従って高くなっており、主な原因とされているピロリ菌の感染率とも一致しています。
ピロリ菌感染陽性でも、除菌治療に成功することで慢性胃炎の改善と再発防止につながり、胃がん発症のリスクを低減できます。
原因
慢性胃炎では、胃粘膜が傷付いて炎症を繰り返している状態が長く続きます。原因として最も多いのはピロリ菌感染です。次いで非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の副作用があります。他には、ストレス、自己免疫性胃炎(A型)、クローン病、栄養・代謝・微小循環障害などによって生じているケースもあります。
また、塩分の過剰摂取、刺激の強い香辛料、コーヒーなどのカフェインの常用、喫煙などの生活習慣が発症や悪化に関与していることもあります。
診断
造影剤を使ったX線検査でも、大きな病変や隆起のある病変は発見できますが、胃カメラ検査のように平坦な病変や微細な病変の発見は困難です。また、造影剤を使ったX線検査で疑わしい病変が発見された場合、胃カメラ検査を受けないと確定診断ができません。
胃カメラ検査では、胃粘膜の色や表面の状態などを詳細に確認でき、さらに病変の組織を採取できますので組織の病理検査ができます。症状だけでは鑑別できない慢性胃炎、胃潰瘍、胃がんをはじめとした多くの疾患の確定診断が可能になります。また、採取した組織を調べることでピロリ菌感染の有無も確認できます。
当院では、特殊な光を用いて血管構造や粘膜(腺管)構造の評価や炎症の正確な評価が可能になる最新の内視鏡システムを導入し、研鑽を積んだ専門医が丁寧に観察することで微細な病変の発見も可能な精緻な検査をスピーディに行うことができます。心身への負担を最小限に抑えるために、鎮静剤を使ってウトウトした状態で検査を受けることも可能ですので、安心してご相談ください。
治療
症状のない慢性胃炎
ピロリ菌感染を原因とする慢性胃炎では無症状のまま炎症が進行していることが珍しくありません。こうした場合も胃がん発症のリスクは高くなってしまいますので、ピロリ菌感染が認められた場合、除菌治療をお勧めしています。除菌治療に成功することで炎症の再発率を大幅に抑えられ、炎症が進行して胃がん発症リスクが上昇してしまう萎縮性胃炎への進行を抑制できます。
ただし、ピロリ菌を除菌できた場合も胃がん発症リスクがゼロになるわけではなく、感染経験のない方に比べると胃がん発症リスクは高い状態ですので、Ⅰ年にⅠ回程度の定期的な胃カメラ検査(バリウム検査ではなく胃カメラ検査が有用です)で早期発見につなげることが重要です。
症状のある慢性胃炎
炎症の程度、範囲など胃粘膜の状態、ライフスタイルなどにきめ細かく合わせた治療を行います。薬物療法では、主に胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、運動機能調整薬、漢方薬などを区に合わせて処方しています。また、生活習慣の見直しも症状改善や悪化の防止に有効です。飲酒や喫煙を避け、ブラックコーヒーや刺激の強い香辛料、肉、油ものを控えることを心がけましょう。
ピロリ菌感染陽性の場合には、除菌治療も並行して行います。
経過・予後
身体の様々な機能は加齢と共に低下していきますので、慢性胃炎も年齢が上がるごとに発症しやすくなります。ただし、慢性胃炎は幅広い年代に生じる疾患であり、年齢に関わらず適切な治療を行うことで症状を軽減できます。
注意が必要なのは、ピロリ菌感染によって起こっている慢性胃炎です。ピロリ菌感染陽性の場合、炎症を治しても再発を繰り返し胃がんリスクの高い萎縮性胃炎に進行する可能性がありますので、できるだけ早く除菌によって慢性胃炎の進行を抑制することが重要になります。
ただし、除菌に成功しても胃がんリスクはゼロにはなりません。おおよそ0.35%/年の発がんリスクが残るとされます。ピロリ菌の感染経験がある場合や除菌をされた方はには、感染経験のない方よりも胃がんリスクが高くなります。Ⅰ年にⅠ回程度の定期的な胃カメラ検査(バリウム検査ではなく胃カメラ検査が有用です)を受けることで胃がんの有効な早期発見が可能になります。
家族に慢性胃炎やピロリ菌感染の方がいたら
ピロリ菌は同居家族内で感染することもあるため、同居家族や血縁者にピロリ菌感染や慢性胃炎と診断された方がいる場合には、胃カメラ検査を受けることが望ましいでしょう。